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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「そう思ったら、死んだ人間がいなくてよかったわね。ナイスな判断だったんじゃない?」
棗くんが笑った。
「……お前も、変わってきたのかもな」
早瀬のぼやきにあたしは聞き返す。
「どういうこと?」
「周りを優先できるようになってきたということさ。お前の中にあったのは、俺達の命だったんだろう?」
今のあたしは、自分だけの世界ではない。
大切な人達が増えたのだ。
亜貴のいない世界に、亜貴同等の存在の人達がいる。
「あの状況の中で、仮に無意識にしても、自己犠牲に頼ることなくベストの選択肢を選べたのは上出来だな」
「……っ」
「そうやって、お前を含めた全員が生き残れる道を探せ」
「うん」
あたしは窓から夜景を見た。
東京の夜景は見慣れているはずなのに、あまりに綺麗な景色に思えて、涙が出てきた。
「ねぇ柚。これ、柚のバッグだろう? 置いていったんだよね、確か」
裕貴くんがあたしに声をかけてきたから、慌てて指で涙を拭う。
「ええ」
「なんか光ってるよ?」
バッグを受け取ると、確かにバッグの中が発光していてすぐ消えた。
それはどうやらスマホに通知が来ていたためらしい。
上着に入れたつもりで、忘れていったんだ。
メールかなと思い画面をチェックしてみると、見慣れない通知が来ていた。
『不正アクセスされています』
それはシークレットムーンで借りたセキュリティのソフトからだ。
連携していたから、通知がきたんだ。
通知をスライドさせて見てみる。
「どうした?」
「早瀬、ひっかかったみたい」
「え?」
「オリンピアのスパイがわかったかも」
『渡瀬茂さんのパソコンからの不正アクセスです』
「うちの課長だわ」

