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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

「……あ、はい、ようやく帰国出来ました。ええ、はい。……久しぶりの日本を堪能する暇もなく、早速須王にこき使われてます、あははは」
……しかし棗くん、どうしてこんなに女声を出せるのだろう。
ちゃんと低い男声も出せるのに、女声も違和感がない。
ウグイス嬢でも大丈夫そうだし、コールセンターにいそうな綺麗な女声なのに、どうして性別は男なんだろう。
「え、棗姉さん今、ナイチョウって言った?」
「なに、裕貴くん」
すると裕貴くんは鼻息荒く教えてくれた。
「内調は、内閣情報調査室の略で、内閣総理直下の情報部門のことだよ。日本の情報機関のトップみたいなもの! 滅茶苦茶エリートじゃん、こんなナリしてるのに。元マトリで今は内調なんて、すげぇ格好いい!」
……そうらしい。
「じゃあこいつが、海外に行ってたのは、そのナイチョウとやらがAOPを追っていたからなの? え、国際部門にいるの、こいつ」
こいつ呼ばわりをするのは女帝だ。
謎の多い棗くんの正体を、早瀬は知っているのだろうか。
じゃあ棗くんは、早瀬が何者かを知っているの?
あたしの知らない早瀬を。
「――はい、というわけでよろしくお願いします」
結局なにを誰に頼んだのかわからないまま、棗くんは電話を切った。
裕貴くんも女帝も話し込んでいたから、内容を聞いていないらしい。
「須王。ワタルさん、シュウくんは今とっても仕事が忙しいから、別のひとに頼むかもしれないといってたわ」
「……ちっ。何様だよ、上も上ならやはり下も下だな」
ワタルさん……。
あたしの頭の中に、早瀬のプライベート用のスマホに登録してあった、大嫌いらしい……『渉』の文字が浮かんだ。
もしかして早瀬、その渉さんに電話をしたくなかったから、棗くんが代わりに電話をして、渉さんではなくシュウくんというひとに、なにかを頼んだとか?

