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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

裕貴くんは、来週からスタジオから学校に通うことを決めたらしく、早瀬が直々に裕貴くんの家に挨拶に行ったようだ。
まるでお嫁に貰います、と言わんばかりの正式な挨拶をされた家族は、ただ頷くことしか出来なかったようで、反対もされないまま、(女だけの)家族公認のスタジオ生活となった。(ちなみにその場のサインは逃げてきたようだ)
そしてあたしは――。
早瀬と同じ場所に帰ってはいるものの、他の仕事を山に抱えてスタジオでこなす早瀬とは、会社でもふたりで喋る機会に恵まれず、明日に迫った告白もなんだか流れてしまうのではないかという不安に苛まれていた。
その方がいいかもしれないと思う反面、やはり早瀬ともう少し改善した関係になりたいと思うし、あれだけ金曜日は抱く抱く言われていれば、やはりその気でいたというか……。
なんだろう、早瀬が近いのに遠くて。
見えない敵の正体を掴もうとしたり、色々気を遣ってくれているのはわかるけれど、金曜日決行なのかどうかもわからないほど、ふたりきりになる時間もなくて。
狙われている状況で、告白なんてよしなさいと神様に言われているような気もして。
あたしは会議室の一室で、女帝が父親を脅して、違約金を請求した賠償金とばかりに奪い取った……デモテープを聴きながらため息をついていた。
泣きたくなるほど、心に響かない。
あたしの心が私的な感情に囚われているからかもしれないと、一度社内を駆け回って頭をクリアにしてから聞いてみたが、やはり心に響かない。
「凹む……」
そうテーブルに突っ伏して、表面の冷たさを左頬で感じていた時。
「サボりか?」
右頬に冷たいものがあてられて、慌てて顔を上げれば早瀬が缶コーヒーを持って笑いながら立っていた。
……早瀬ロスに陥っていたあたしは、抱きつきたい衝動を堪えて。
「どうしたよ」
笑いながら早瀬は、あたしの隣の椅子に座った。
「なぁ、柚」
柚と久々に呼ばれて、嬉しくて泣きそうだ。

