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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「お、お元気ですか?」

「徹夜続きだけどな」

「じゃ、じゃあ明日はナシということですね」

 内心、しゅんとする。

「それはねぇだろう、お前」

 早瀬にデコピンされたのが、思いきりあたしにヒットして、痛くて涙が出てきた。

「なんのために俺が急ピッチで仕事を上げて、明日納品出来る状態にしたと思ってる」

「え?」

 早瀬が涙で滲む。

「夜這いもしねぇで毎日我慢してるんだから、明日はナシとかいうな。今の俺を支えているのは、明日お前を抱くことなんだから」

「……っ」

「明日は、俺にとって特別になった。……明日はスタジオに帰らねぇぞ。ちゃんと皆に宣言してある。お前と他に泊まって、日曜に戻ると」

「な、なんで宣言……」

 だから昨日、皆がにやにやしていたのか。
 
 あたしが金曜日に告白すると言ったことには、にやにやされなかったのに、早瀬のせいで邪なものに曲がってしまったんじゃない?

 いやまあ、セックスしている関係だとは女帝と裕貴くんには話したけれど、最年長の小林さんと、同級生の棗くんに知られるなんて。

「別に隠すような奴らじゃねぇし。こんな時だから余計……俺はお前とふたりでいたい」

 早瀬はテーブルに片肘をついて顎を乗せながら、片手であたしの髪を指に絡めて遊び始める。

「明日、希望ある? どこに泊まりてぇ?」

 この男は。

 どうして今まで放置しておいて(皆の前では会話はしたけれど)、突然に甘えるようにして直球を投げるんだろう。

 なんでこんなに心臓に悪い男なんだろう。

「また夜景が見えるところがいい? 横浜のリベンジしようか」

 早瀬の甘やかな眼差しに、心が切なく音をたてて。

 ダークブルーの瞳に、惚けるようにして吸い込まれていく――。
 
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