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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「品川のいつものところはやめような。違うところにしよう」

「……っ」

「なぁ、どこがいいよ? 日曜まで連泊してもいいし、別のところでもいいし。スイートがいいの? 今日中に予約しねぇと」

 ちょっとやつれたように思えるのは、きっと徹夜をしていたからなんだろう。だけどそれでも少し翳っただけに過ぎない美しい顔を少し傾けて、嬉しそうに聞いてくるから。

「あたしは……」

「ん?」

「……早瀬の家がいい」

 そう言ってしまった。

「は? 俺の家?」

 驚いたらしく、斜めの顔が真っ直ぐになる。

「なんでよ?」

「理由がなきゃ、行っちゃ駄目?」

「駄目ではねぇけど……」

 早瀬は頭を掻いて言う。

「まさかそう来るとは思っていなかったな。俺の家、殺風景で面白みもなにもねぇぞ? もっと他のところの方が……」

「早瀬の自宅がいいの!」

 思わず声を荒げてしまった。

「……それとも、あたしには見せたくない?」

 今まで一度だって、早瀬は自分の家を口にしてこなかった。
 だから行ってみたいんだ、素の早瀬が見える場所に。

 だけど、早瀬は考え込んでいる。

 考え込むほど、あたしは入れたくないの?
 
 心が寒くなってくる。
 
「……わかった。見せたくないなら別にいいよ。今までもそうだったんだから……」

「いや、見せたくないとかじゃねぇんだ。もっと、別の意味でどう捉えていいか、考えたというか」

「別の意味って?」

「……期待しちまうというか」

 早瀬は片手を伸ばしてあたしの頭を撫でた。

「期待?」

「……お前は、俺のプライベートに踏み込みてぇんだと」

 それは真剣な面差しで。
  
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