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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「人の気もしらねぇで、なに煽るわけ、お前」
「べ、別に……」
「ああ、明日すぐ抱きてぇ。だけど、その前に、話をしよう」
どきっとする。
「今度は俺、逃げねぇから」
切なげな声が耳に残る。
「お前の心も欲しい」
……それはあたしもだ。
早瀬の心が欲しい。
今までのように、苦しくて辛い抱かれ方はしたくない。
だけど、早瀬の返答次第でそうなってしまう可能性もある。
それが、怖い。
だけど――。
「あたしも、逃げない」
変えたいんだ。
早瀬を理解したいし、早瀬に理解して貰いたい。
今度は傷つくことを怖れずに、ちゃんと正面から。
「……上等だ」
早瀬は中々あたしを離さなかった。
物音がする度に逃げようとするあたしを力で押さえつけるようにして。
見られてもいいと彼は言った。
人の目は怖くないと。
怖いのは……と言って早瀬は口を噤(つぐ)んだ。
二年も早瀬を嫌いだと拒んでいたあたしが、実はあなたを好きだといったら、彼はどんな反応をするだろう。
戸惑う?
呆れる?
面倒だと思う?
あたしの本気を、少しでも受け止めて欲しい。
散々苦しんで、それでも出た結論なの。
昔も今も好きなのだと。
性処理ではない、普通の関係になりたいと。
あたしを、どうか拒まないで。
あたしを、どうか嫌わないで。
九年前のように、置いていってしまわないで――。