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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「な……」
「六時、ビルの玄関」
「え、ちょっと……」
それは隆くんとの待ち合わせ場所と時間で。
「来るか来ないか、お前が決めろ」
早瀬は憤然と行ってしまう。
……ここまで早瀬が嫌がるとは思わなかった。
ここまで嫌がれてしまったらあたしも隆くんに会い辛い。
だったら、断ろう。
せめて1万円を置いて月曜日にお菓子でも渡しそうか。
そう思いながら、あたしは上の食堂に赴き、隆くんにキャンセルを言いにいったが、隆くんがいない。
「ああ、隆はおつかいでいないよ」
おばちゃんが答えた。
「何時にお戻りですか?」
「時間がかかるから、そのまま直帰になるんじゃないかなあ」
「では、電話番号とかメールアドレスとか、連絡がとれるものを教えて頂けませんか? 至急連絡をとりたいんです」
「ああ……。電話番号もアドレスも教えて上げられるんだけれどね、隆……置いて行ってしまったんだよ」
おばさんが白い割烹着のポケットから取り出したのは、スマホ。
「それに今日は帰りが遅くなると言っていたから、家に戻ってからじゃないと連絡取れないよ?」
つまり、六時に玄関にいるだろう隆くんに速攻断って、それで近くにいる早瀬と消えろと?
あたし何様よ!
エリュシオンに戻り、早瀬にLINEをした。
『待ち合わせ六時半にして』
『隆くんと六時に待ち合わせで、断るから』
『ちょっと、見てるんでしょ!』
『六時半よ、それまで下にこないでね!』
既読がついているのに返事が来ない。
早瀬は忙しい身。きっと会議とか出ているんだろうと思うけれど、あたしはため息をついてスマホをポケットにしまった。
自分だって、既読になっても返事寄越さないじゃん!