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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
  

 

 午後五時四十分――。

「お疲れ様でしたっ!!」

 前日より萎んだお腹を持つ、痩せ細った茂に挨拶をする。
 
 このひと、体格の割には精神が軟弱そうだから、スパイなんて出来そうにもないように思える。

 だけど毎日凄まじいお菓子を食べていたことを思えば、スパイの報酬にお金を貰って買い食いしていたとか?

 いまだ茂のパソコンからアクセスされた旨の通知はなされているが、解析結果は出ていない。

「奈緒さん、先に出るね」

「あ、早瀬さんまだ帰ってこないわよ」

「帰ってきて、六時に出ようとしたら引き留めてくれる?」

「なんで?」

「じゅ、準備があるの!」

「ふふ、いいわよ。……じゃ、頑張るのよ、柚」

「……ありがとう。あたって砕けてみる!」

「連絡待ってるわよ!」

「うん!」

 笑顔で会社を後にして、玄関に行くと、帰るサラリーマン達の群ればかりで隆くんがいない。

 仕方がないから柱のところに立って待って居ると、警備員さんの格好をした男性が、あたしのところにやってきた。

「あの……上原さんですか?」

「はい、そうですが……」

 ここの警備員は、勤務が不規則なシフト制になっていて、時々見知らぬ顔の警備員さんとなり、この男性も初めて見る顔だった。

「これ預かってますよ」

 渡されたのは、四つ折りに畳まれたメモ。

「二十分前くらいに、なんだか急いで出て行かれましたけど」

 開いてみると、メモにこう書かれてあった。

『急用が出来て六時に戻れないので、木場駅の横にあるロ○ソンで待っていて下さい 隆』
 
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