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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
隆くんに断るためには、木場駅に行かないといけないらしい。
断ろうと前々から思っていながら、二十分前に下に入れば隆くんに会えたかもしれないのに、六時近くになっても断れないこの状況。
タイミングがずれると、とことんずれまくるらしい。
隆くんに会うために、いざ木場駅へ!
あたしなりに周囲を窺い、人の波に紛れるようにして歩く。
大丈夫、黒いボックスカーはどこにもいない。
だけど油断は大敵。
木場で断ったら、早瀬に木場に来て貰った方がいいかも。
学習能力があるモグモグでいたいもの。
指定されたコンビニに入る。
会社帰りのサラリーマンが弁当を買う姿は、なにか哀愁が漂う。
どこにいていいかわからなくて、窓から外が見える雑誌売り場で、お洒落なカフェレストランの特集がなされている雑誌を読んでいた。
……その時だ。
耳をつんざく客の悲鳴と共に、なにかが視界を横切ったのは。
はっとすれば、窓の外には見慣れた黒のボックスカー。
「黒服!!」
逃げようにもサングラスをかけた黒服がぞろぞろとコンビニに入って来て、どの道も塞いであたしに近づいてくる。
眩しい照明の店内の中にいるせいか、どれもこれも増殖したかのような同じ顔をしているように思えて、さらに不気味さに拍車をかけて。
やばい、やばい。
夢中になって雑誌を読みすぎてしまっていた。
横は本棚と文房具棚。
道を占領する黒服――。
どうする!?
どうすれば逃げられる!?
今、ひとりなのに!!
「伏せろ!」
その声は早瀬のもので、あたしは幻聴だと思った。
だってあたしは、早瀬をビルの玄関に置いてここにいるのだ。
まだ、木場に来てくれと連絡していないのだから。
「柚っ!」
しかしこの声は――。
「早瀬!?」
現われる、背広姿の長身の男。
長めの、やや癖毛のダークブルーの髪と瞳。
どう見ても麗しの王子様が、正面に居る黒服の首を、背後から腕で締め上げているのがわかった。