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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「ど、どうして……」
「伏せろ!!」
慌てて床に蹲れば、ドカッバキッと音がする宙には、細マッチョの早瀬が吹き飛ばした黒服達が舞い、棚が崩れる。
「柚、立ち上がれ!」
今度は起立の指示。
意味がわからないまま反射的に実行すれば、あたしの頭が、勢いよくなにかをガゴン!と突き上げたようで、見れば黒服が顎を押さえて、震えている。
あたって砕けたのかしら。
男を殴っている早瀬に銃が突きつけられそうになっているのがわかり、あたしは傍にあった雑誌をむんずと両手で掴み、あたしに背を向けている男のお尻を思いきりばしぃばしぃとと叩くと、男が前屈みになる。
「さんきゅ」
手にしていた本はエロ本漫画だったようで、その汁だらけの『いかにも』な表紙に驚いて棚に戻してしまった。
あとは早瀬の独壇場。
床には男達が硬直して倒れている。
早瀬は男の襟元のバッチを毟り取ると、あたしを促すようにして外に出た。
「な、なんで早瀬がここに……」
「ずっとビルの下にいたんだよ、俺は。……五時前から」
「え……」
「なんだよ、そのストーカーでも見る目つきは。六時より遅くと言われたら、六時前になにかあると思うじゃねぇか」
「そうだけど、あなた暇人じゃないのに」
「そうだよ。暇人じゃねぇけどお前のことは……って、これはいいんだよ。で、俺はここに居たが隆は来てねぇよ。だから五時で現われたあの警備員にメモを渡せるはずがねぇ」
「どういうこと!?」
「グルだろうさ。隆も警備員も。だから指定場所に黒服が来た」
「確かに見慣れない警備員ではあったけど、隆くんはそんな子じゃ……」
「そんな子じゃなければ、脅されたかなんかしたんだろうな」
「……っ、そう先に言ってくれればよかったじゃない。ビルを出る時」
「俺が六時と言っているのに、お前がどうしても隆の方に行こうとするからだろう。大体六時半に来いなんて、お前がいねぇのを確認しろと?」
「断ろうとしてたのよ! LINEにも書いたでしょう?」
「言葉ではどうとでも言える」
「なんでわざわざ嘘をかかないといけないのよ。あなたが嫌なことはしたくないなと思ったのよ」
「……っ」