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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「食堂に行ったら、隆くんがスマホを忘れて出かけているというから、連絡を取る方法がなくて。だったら六時に直接待ち合わせ場所で断るしか方法がなくて。隆くん断って、すぐに早瀬とビルを出るのってそれは失礼じゃない」

「別にいいだろうが」

 ぼそっと早瀬は呟いた。
 
「よくない! 断るには誠意を見せたかったの、直接。隆くんのティラミスで、会社の雰囲気がよくなったのは事実なんだから。早瀬だって、スイーツマジックが起きたんでしょう? そこは感謝しないと。ね?」

 早瀬は不機嫌そうに頭を掻いた。

「……そんなに嫌だったの、隆くんとの食事」

「隆だけじゃねぇよ。俺がいないのなら、相手が棗でも裕貴でも小林でも、ふたりきりは絶対嫌だ」

「……そう」

「なに他人事なん……って、なんでそんなに顔を赤くさせてるんだよ」

「し、知らないわよ。黒服に焦ったから暑いのよ」

 平然としていられないわよ、まるでヤキモチ焼いているみたいなことを言われたら。

「ちょっと前まで涼しい顔をしてたじゃねぇかよ」

「す、涼しくなんてないわ。もうほら、お腹空いた! 夕飯食べよう」

 先に行こうとしたが、早瀬の手に引かれて。

「まったく。お前は不意打ちばかりするよな。俺をどうしたいんだよ」

 ゆったりと細められたその目は、揶揄しているというより嬉しそうで。

 伸ばされた手があたしの腰に回り、引き寄せられる。

「ちょ……」

「隆が居たら、見せつけてやる。お前に入る隙間はねぇと」

「だから隆くんはそんなんじゃ……」

「駄目。お前を誰にもやらねぇ」

 早瀬はあたしを、彼の肩に顔をつけるようにして抱きしめながら、あたしの頭に唇を落とす。

 ……彼の束縛はなにゆえなんだろう。

「食事、家でお前が作って? 店でも、お前の顔を他の男に見せてやるのも無理。お前は俺だけのものなんだから」 

 彼のものであるという、その理由を知りたい。

 早瀬の家で、聞いてもいい?
 そこに愛情は入っているのかって。
 
「ここからはふたりだけの時間だ」

 ドキドキが止まらない。
 誰の視線も気にならない。

 早瀬に傍にいて貰いたい。
 早瀬に抱かれたい。

 ……心ごと。


 
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