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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「なななな……」
あたしはカートごと後ろに移動しながら、適当な安い肉をカゴにいれ、そのまま右折して脇の小道を走った。
「おい、待てよ。なんで逃げる!!」
この金銭感覚壊滅男が一緒だったら、破産する!
一番に見なければいけないのは食品の善し悪しではなくてお値段! その次に品質! それが一人暮らしの基本です!
不思議とカートを押していると早く走れるもので、追いかけっこのようにして店内を走りながら、肉肉言う男のために肉料理を急いで頭の中で探しつつ、その材料をカゴにいれて、縦横無尽に走る。
「お前な……」
ようやく追いついた早瀬。
長い足で早く走れる早瀬でも、あたしの動きには敵わなかったらしい。
「そうだ、鍋ある?」
肝心なことを聞くのを忘れていた。
どの程度の料理器具が置いてあるのか。
「新品の一式、どっかの棚に入っていると思う」
なんでも、通販で仕入れてそのままらしい。
使っているような気配はないから、料理するための道具はあるのだろう。
早瀬のマンションは、まるでホテルだった。
共同のエントランスが高級ホテルのラウンジを思わせる作りで、沢山のふかふかのソファが広がっている。
横を見ればエスカレーター。
なぜに、マンションにエスカレーター!?
驚いていたら、庶民の白いレジ袋とは無縁な早瀬が、ネギがはみ出した買い物袋を抱えて、エスカレーターを促し、下りエスカレーターを隣に見ながら上がった。
どこぞの王宮かと思われる大きなシャンデリアが目を引くそこのフロアには、右手にホテルの受付みたいなカウンターがあり、パソコンを机の上に置いた制服姿の女性が、早瀬ににこやかにお辞儀をした。
「ちょっと待っててくれ」
早瀬がコンシェルジュになにか話しかけている間、あたしは大きく豪奢な空間を見渡していた。