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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 
 
「面倒だね、自分の家に戻るのに」

「だけどまあ、セキュリティがしっかりしているからおかしな奴とか入らねぇ。ここのマンションは各界の有名人が多く利用しているから、報道陣やストーカーなどはシャットアウトしたまま籠城して過ごせるし。お前が来るときは、あのコンシェルジュに言って来客用のカードを貰え」

 ……次があるのかな。
 そうだったら嬉しいけれど。

「エレベーターは東西の棟にふたつずつある。そしてそれぞれの棟の各フロアには一軒ずつしか入ってねぇから、もしエレベーター内で同じ階数の奴がいたら、ひとまず下の階で降りろ。まあいつも俺がいるようにはするけれどな」

 ……次も連れて来てくれるの?
 自分を好きな面倒な女だからと、ストーカー扱いしない?

「このマンションは35階まであって、33階からは共用部でBARやプール、ジム、露天風呂がある。これはコンシェルジュに言って時間制になるから、他の奴とは重ならねぇ。さっきちょっと予約してきた。俺もジム以外行ったことがなかったし、ちょっと探検しようぜ」

 早瀬は柔らかく笑った。

 早瀬の細マッチョ造りは、マンションのジムを利用していたのか。

 エレベーターが26階に着いた。

 降り立った先のフロアにはドアがひとつしかなく、早瀬はカードをドアの横のスロットに差し込む。

 カチャリ。

 鍵が開く音がした。

「しばらく帰ってなかったから、汚くてすまねぇな。お前が来ると早くからわかっていたなら、必死で片付けたものを」

「来なくても片付けましょう」

「……そうだな。お前が俺の嫁になったら、俺に駄目出ししながらお前が、俺の環境と健康を守ってくれそうだ。……安心だな」

 嫁。
 ちょっぴり動揺したが、これは仮の話題であって、別に深い意味はない。

「誰が嫁になろうとも、しっかりものを選んでね。そうじゃないと、仕事に健康奪われるよ」

「……本当にお前、乗ってこねぇよな」

「なにを?」

 初めて踏み入れる早瀬の部屋。
 靴を脱いで廊下を右に曲がれば、そこはキッチンカウンターつきのリビングが出てくる。
 
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