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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 
 

「広っ」

 月並みな表現だけれど、それ以外に言いようがない。

 キッチンの隣はダイニング。
 料理を作りもしないくせに、ワイン色の重厚なテーブルセットが置かれてある。

 その隣はどう見てもくつろぐため以外の目的がなさそうな、ダークブルーの革張りのソファがコの字型に広がっている。

 テレビも、スタジオのミーティングルームにあったテレビより大きく、置かれてあるステレオセットや、長細いスピーカーだの、音楽も高品質で聴けそうな環境だ。

「そうか? スタジオの方が二十畳だから広いだろう。ここはダイニング入れて十八畳しかねぇし」

「十分だよ! うち六畳だよ!?」

 リビングはカーペットとかラグというものが敷かれておらず、明るい色の木の床にワイン色の家具と、グレイ色の石が積み重なったような柱で構成され、リビングの奥には飾り棚のような仕切りがあり、その奥にはベッドが見える。
 
「ここは1LDKなの?」

「3LDKの個室のドアを取っ払って、2LDKにしてる。寝室の横のドアから、スタジオみたいな仕事部屋に繋がっている」

 まるでモデルルームみたい。
 ほとんど仕事場にいるくせに、なんでここまで広いリビングとか必要なのかね。このリビングで何人寝れるんだろうね。

 そして、ソファの色と反対色となるワイン色に統一された家具や調度が、とても気品溢れていて、王様の部屋だなあと思わせる。

 無駄な物はない代わりに、しっかりとした意味がある、存在感が大きいものしかない。

 あたしは脱いだ上着をソファにおいて、キッチンに立つ。

 見事なまでに使われた形跡のなさそうなシンクやガス台や換気扇。
 お鍋すら外に出ておらず、閑散としたキッチンだ。

「鍋は?」

「鍋は上の棚だ」

「上って、ここかな……」

 上にある扉に背が届かなくてつま先立ちしているあたしの背後から、ふわりとベリームスクの匂いが漂って。

 あたしの肩に手を置くようにして、早瀬が後方から手を伸ばして鍋セットを出してくれた。

「ありがとう」
 
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