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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 
「俯いて、どうした?」

 早瀬がシンクの縁に手を置きながら、あたしの顔を覗き込むようにして腰を屈め、あたしの顎を手で上げてくる。

 ダークブルーの瞳がじっとあたしを見ている。

 ……そう思ったら、全身がかっと熱くなる。 
 

「………」

「………」


 真っ赤な顔を隠そうとするのだけれど、早瀬の手の力には敵わず。


「……柚」

「……っ」

「このままなら、お前をまず食いてぇんだけど」

「ホラーはいりません」

「ホラーじゃねぇよ」

「……ご飯を」

「柚」

 唇が重なった。

 ぬるりとした舌をあたしの唇に差し込みながら、早瀬は眉間に皺を寄せるような苦しげな顔をしながら、ネクタイを外した。

 ベリームスクの匂いに包まれて。

「んぅ……っ」

 蕩けるような反応をしたのは、あたしの脳なのかあたしの身体なのか。

 唇が離れても、絡ませた視線のまま、また唇が重なり、早瀬はあたしをシンクと挟むようにしながら、あたしの口腔内で獰猛に舌を暴れさせた。

 そして――唇が離れる。

「……このままなら駄目だ。今夜は駄目なんだ」

 そう苦しげに掠れた声で言い放つ早瀬は、やるせなさそうにしながら、あたしの背中に両手を回して抱きしめると、


「……柚……」

 苦しげな息を吐きながらあたしの名前を呼び続けた。
 

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