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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice

 

 *+†+*――*+†+*


 憧れの高級お鍋を手にした時、緊張に手がぷるぷると震えた。

 お安いお肉が霜降り松阪牛に見えるね。
 ほぅら、お安い松阪牛が美味しそうだね。

「嘘だ。それは安い肉だ」

 早瀬が後ろから抱きついている。
 大きなコアラはお肉料理から離れない。

「安い肉だと思うから安いのよ。松阪牛と思えば……」

「絶対思わねぇ!」

 ……なんだか早瀬の身体が強張っているように思えたから、放置していた。
 早瀬はなにを言い出す気なんだろう。
 九年前のことが、そんなに言いづらいことなんだろうか。

 そう思うと、あたしまで緊張してきて、早瀬と馬鹿なやりとりをしないと気が紛れなかった。

「さあ、食べましょう」

 使った形跡のない炊飯器で、買ったお米が炊けたら準備OK。
 ワイン色のテーブルの上にご飯を並べた。

 肉肉言う早瀬のために作ったのは、挽肉と炒めた刻み野菜を調味料で味付けしたものを、アルミ箔で包んでフライパンで蒸し焼きミートローフ。

 豚モモの薄切り肉にチーズを挟んで、マヨネーズを塗った肉にパン粉をまぶしてフライパンで揚げる。

 ミートローフのお肉をキャベツで包んでキャベツロールスープ。

 さらになぜか、カレー粉を棚から取り出した早瀬のために、カレーライスという、ちょっと残念なメニューになってしまったけれど、それでも所要時間30分もかからない。

「うまい!! これ、松阪牛?」

「そんなもの買ってないでしょ」

「なんで安くてこんなに美味しいの? お前、神?」

「違います」

「お前、俺太らせる気?」

「ちょっ、なんであたしのまで取るのよ! 自分の……ちょっと!」

 早瀬は、うまいうまいと繰り返しながら、あたしの方まで箸を伸ばして、遠慮無くお肉をとっていく。

 それがなんだか悪ガキのようで、怒る気分にもなれずに、くすりと笑ってしまうあたし。

 優雅な箸使いと、それとは正反対の無邪気さを兼ね添えた早瀬は、本当に嬉しそうで、見ているだけでほっこりとしてしまうから。

 早瀬と笑いあいながら食事をとれるようになったことが感無量で。

 あんなに怖いと思っていた早瀬が、なにも怖くない。
 それどころか、愛おしいと思うあたし。
 
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