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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「お前、スタジオであまり料理するなよ」

「え……。人様に出せるほどの料理じゃないか」

 高揚した分、落とし込むのもやっぱり早瀬で。

「そういう意味じゃねぇよ。他の奴らの胃袋を掴むなっていうことだ」

 口を尖らせて早瀬は言う。

「俺ひとりでいいだろう?」

 どこか揺れているダークブルーの瞳があたしに向いた。

「でも女帝と家事は分担制で……」

「どうしてそっちに行くんだよ。男の胃袋を掴むという話は、ひとつの方向しかねぇだろ?」

 ひとつの方向?

「え、どの方向?」

 きょとんとすると早瀬が拗ねた。
 恨めしげにあたしを見ながら、がつがつとちょっと乱暴にお夕食。

 胃袋を掴むなんて……、医療系?




 あたしが食器を洗っている間、早瀬は寝室から赤ワインを三本用意して持ってきて、スーパーで買ったカルパスをお皿に入れている。

 王様がカルパスなんて……と思うけれど、これも肉系なんだろうか。


 ふかふかなダークブルーのソファにちょっと離れて座ると、早瀬の手が伸びて引き寄せられた。

 コルクを抜いてくれて、ワイングラスに赤ワインを入れてくれる。

「夏の中元に送られてきた奴だ。棗が狙ってたけど、お前に飲ませてやる」

「棗くんに悪い……」

「そうだ。棗よりお前に飲ませてやるんだから、今度は仕切り直しでゆっくり飲めよ?」

 早瀬がわざわざ赤ワインを持ってきてくれたのは、あの横浜での失態を上書きしようとしてくれているからなのか。

 こういうのがさりげなくて優しいよね。

「うん、ありがとう」

 乾杯して、カツンとグラスを鳴らした。

「これもとても美味しいけど、なんて言うワインなの? 高そう」

 横浜で飲んだのより美味しい。

 早瀬はボトルを持ち上げてラベルを見たようだ。
 当然ながら、日本語ではない。

「ロマネ・コンティの……ああ、このタイプなら、そんなに高くねぇな。二十万くらいだから」

 思わず口に含んだ赤ワインを吹き出しそうになった。
 
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