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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「呑気に学校なんて行ってられず、毎日生きるか死ぬかの猛特訓で。銃と格闘術は、死なねぇためには必要だった。地獄から抜け出すためには、生き抜かねぇといけなかった。……生き残るために仲間を殺しながら」

 早瀬は泣きそうな顔であたしを見て言った。

「あの組織は、タルタロスだった」

 早瀬の唇が戦慄いた。
 
「死んだ仲間の、恨めしい声が聞こえて発狂しそうになり、生きていて悪かったと何度叫んだろう。やがて、血の匂い、悲鳴……それに動じねぇ自分がいることに、どれだけ泣いて吐いただろう」

「……っ」 

 口を差し挟みたい。
 だけど、早瀬の話を遮りたくない。

 早瀬が辛いことを語ってくれるのなら、口出ししてはいけないと思うから。

 あたしは、震える早瀬の手を上から握った。

「十二年前、俺達が十五歳の時。……雪が積もっていたその日、俺は怪我をして倒れたまま、気を失っていた」

 早瀬は濡れた瞳であたしを見る。

「……お前、記憶ねぇ?」

「あたし?」

 十五歳、中三の冬の頃は……受験。

「受験……」

 そうだ、あの時あたしは……雪の精を見た。
 今思えば、九年前の天使のように、美しい少女で。

 あれは白昼夢でも見たような儚い記憶。
 あたしが思い出さずに居る程度の、あたしの作った妄想のような。
 
 記憶の箱の蓋がパタパタと開いていく。

 受験の帰り、女の子に手を引かれて、怪我人を見つけた。
 雪に埋もれるようにして、お腹から血を流して倒れている少年を。

 家に近かったから、運転手さんとお手伝いさんに来て貰って、海外で誰もいない家に運んで貰い、家にお医者さんを呼んだ。

 いつの間にか案内してくれた女の子はおらず、客室に寝かせた少年は、次の朝には忽然と部屋から消えていた。

 もう少年少女の顔も思い出せないけれど。

「……まさか、あの怪我していたの、早瀬なの!?」

 早瀬はゆっくり頷くと、斜めからあたしを見た。
 
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