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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「……無性にお前に会いたくてたまらなくて。一度、呼び鈴鳴らしたんだよ、お前の家の」
「え……」
「門前払いさ。その頃の俺、かなり廃れていただろうからな」
そんなの初めて聞いた。
「その後組織が解体されたから、十七の高二の夏に俺と棗はお前の居る高校に入った。地下育ちであるのなら、手立ては幾らでもある」
早瀬はやるせなさそうに笑った。
「だけど、お前は高嶺の花で、眩しすぎて」
眩しそうに目を細めて。
「あたしは……」
「お前が自覚してねぇだけで、お前はモテてたんだ。綺麗で優しくてピアノが出来て、有名人の娘で。……声をかけられなかった」
早瀬はモテているとは聞いていたけれど、早瀬の姿を高校前期で見たことがなかったのは、いなかったからなのか。
どれだけ早瀬のことに興味がなかったんだろう。
「棗は偶然装って、時折お前に声をかけていたけれど、お前の記憶に留まらない程度が精一杯で。俺は……お前に近づきたいのに近づけなかった。だからピアノを必死に覚えた。お前の気を引くために。元々指は器用だったから、組織で聞いたことがあった曲なら、なんとか出来た」
組織であの曲が流れていたというのは凄いけれど。
――クラシック、教えてくれね?
心が九年前に戻る。
あたしを苛み続けた、九年前に――。