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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「お前とふたりきりになれても、いざとなれば、俺は礼が言えなかった。言ったらお前と世界が違うことを認めることになる。同等でいられなくなる。……これ以上、決定的な差をつけたくなかった」
「……っ」
早瀬は、深呼吸をしてから、あたしの目を見つめながら静かに言った。
「……お前が好きだったんだ、俺」
ああ――。
あたしが、欲しかった言葉だった。
「助けられた時から、ずっと……俺はお前を見ていた。会えば会うほど、欲望が膨れあがって……恋い焦がれて、お前が欲しかった」
ダークブルーの瞳に透明な膜が張られて――、
「荒んだ俺の人生の中で、音楽室でお前と過ごした時間をどれだけ大切に、どれだけ嬉しく思っていたのか」
つつ……と頬に流れ落ちた。
「好きでたまらない女を抱けて、どれだけ幸せだったのか」
早瀬にすべてを捧げた。
早瀬に抱かれて、あたしは嬉しかった。
……幸せだった。
「それなのに、俺は――っ」
あたしの目からも涙が零れる。
彼の心はわかった。
あたしは騙されていたわけではなかった。
……不思議と、素直にそう思えた。
「……教えて欲しい。九年前、なにがあったのか」
あたしは泣きながら訊いた。