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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「……次の日、組織から……選択を突きつけられた。あいつらに助けを求めようとしていたことを知られ、逆手にとられた。……永遠に抜け出ることが出来る代わりに、金輪際お前に近づかねぇか。永遠に組織の闇に沈められる代わりに、お前に気持ちを言うか。……俺が組織と縁がある限り、お前に危険が及ぶ。お前は、俺を道具にしてぇ組織に利用される。……だから俺は、前者を選んだ。組織をきっぱり抜け出れれば、いつか……無事なお前と、また必ず出会えるからと」
「……っ」
「……最低な選択を選んだ俺は、最低な酷い奴だとお前に背を向けて欲しい一方で、お前に忘れないで欲しくて、お前を傷つけた。せっかく男装しているのに、棗に頼んで。……俺は、お前以外の他の女には触りたくもなかったから。思ってもいねぇ言葉で、お前を傷つけた」
――上原サンから去った後、須王は震えながら泣いていたの。噛みしめた唇から血を流して、そして……壁に頭と拳を叩きつけて、泣き叫んでいたわ。
「事情を教えてくれれば、一緒に考えれば……」
九年前に何らかの早瀬からの相談があれば、あたしも理解出来た。
「巻き込みたくなかったんだよ。組織は俺の問題だ。お前は……日の当たるところに生きるのが相応しいから。……俺のような地下ではなく」
「そんな……」
最初から線を引いているのは早瀬じゃないか。
「お前の指……俺のせいなんだろう?」
早瀬はあたしの左手に指を絡ませ、動かない薬指に唇を寄せた。
「綺麗なピアノを奏でていた指だったのに」
あたしの目にぶわりと涙が溢れる。
「俺が好きな……音楽を作る指だったのに」
感覚を無くしてしまっていたはずの薬指が熱い。
「本当に、すまなかった」
――自業自得とはいえ……もしかすると須王は、あなた以上に傷ついていたかもしれない。虚ろな目をしてゾンビみたいだったから。いっそ死んだ方が楽なんじゃないかと思うくらい。