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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「エリュシオンにはなんで……」
「……最低な俺は、永遠に片想いでいいから、だからどうか死ぬ前にお前に会わせて欲しいと、存在を信じたことのねぇ神様とやらに願い続けて……そうしたら二年前、俺を見捨てた身内から、お前がエリュシオンに居ることを知った。どうにか会社に打診して、条件をつけて、お前から離れたくねぇと」
二年前、突然早瀬は、新エリュシオンに現われた。
「なんで会社に条件をつけるの?」
ふと、疑問に思った。
外部から打診するのなら、早瀬に条件をつけられる方が普通じゃないか。
「俺は、組織というのが嫌いで、水面下でお前を連れて独立しようとしてた。それを阻まれて、独立しない条件ということで金をふんだくってやってる」
独立ではなく、エリュシオンであたしに近づくことに意味があったのだろうか。なにより早瀬は時間外もよく働いている。
「その割にはよく働いているね」
「それは……」
早瀬は言い淀み、そして苦笑した。
「お前が、エリュシオンを好きだから、だ。俺には愛社精神なんてねぇよ。……音楽を軽んじているやり方も嫌いだけど、社名からして嫌いだ」
「………」
「お前が笑顔になるのなら、潰さねぇようにしねぇと。貰っている金以上の利益を出さねぇといけねぇし」
「………」
「お前を、身内ならすぐに探し出せたのに、俺自力では見つけられなかった。少しばかり有名になっても、お前にも見つけて貰えなかった。悔しかった。七年ぶりにいざ会えたら、敵視されて嫌悪されて。そこまで嫌われるなら離れればいいと思いながら、それでも俺は、お前にまた惹かれて、お前を縛り付けても傍にいようと思った。すべては俺の自分勝手なお前への想いゆえに」
「あたし……、今も好かれていたの?」
疑問が口に出た。
「なに九年前で分断させているんだよ。当然だろ。お前が好きだから、しつこくエリュシオンに来たんじゃねぇか、俺。ただの罪悪感だけで、エリュシオンには来ねぇよ。組織と同じ名前の会社なんか」
組織の名前、エリュシオンだったんだ。
「あたし、音楽を好きだから、音楽会社に来たのだとばかり……」
「好きだよ。音楽は、イコールお前だから。俺の中では。お前に俺の気持ちを語るように、音楽を作っていたんだから」