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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「好きだったのに、早瀬は裏切る奴なのだと、信じてしまってごめんなさい。あなたのこと、理解しようとしないで、あなたの言葉から真情を推し量れなくて、ごめ……」
「なにしてるんだよ、謝るのは俺の方だろ。お前はなにも悪くねぇ!」
早瀬があたしの手を掴んで顔を上げさせるが、あたしは頭を横にふり、泣きながら言った。
「あたしがもっとあなたを信じていれば。好きなのに、信じなかった。あなたではなく、あなたの言葉だけを信じたの。だから――」
「違うよ、アホ!」
早瀬もソファから滑り落ち、嗚咽を漏らすあたしを抱きしめるようにして言う。
「悪いのはすべて俺に決まってるだろ!」
「違う! 自分の傷を大事にしたあたしの方!」
「違うって! 俺が!」
「あたしなの!」
「俺だ!」
怒鳴り合いをして、そしてふたり同時に吹き出してしまった。
「お前をいつも傷つけて泣かす、俺から出る言葉に怯えて、遠回りをしすぎてしまったな……。お前が好きで大切だから守りたい、ただそれだけだったのに……。好きだと、言うのに十二年もかかった」
早瀬はあたしの後頭部を手のひらで撫でながら言う。
「恋愛経験値があれば、もっと方法を見つけれたかもしれねぇのに、俺にはお前を突き放す方法しかとれなくて。……俺は、自分の気持ちは言う予定はなかった。前に言った通り、お前を傷つけた分、俺も報いを受けようとしていた。思ってもねぇ悪意ある言葉でお前を傷つけた、その苦しみを俺も抱えようと」
九年分のしがらみが少しずつ解けている気がした。
「……すまなかった。心にもねぇ言葉でお前を傷つけて。お前の指を駄目にしてしまって」
早瀬の頭が綺麗に下げられた。
あたしは別に早瀬に謝って欲しかったのではない。
「じゃあ……責任とってあたしの傍に居て。あたしが苦しんだ分、あたしを幸せにして。あなたが苦しんだ分、あたしが幸せにしてあげるから」
「……お前、時々大胆になるよな」
「え?」
「無自覚か。だったらそれでもいい、今は」
早瀬はあたしの片手を取る。
そして――。
「光栄の至り」
王様は、あたしの騎士のように、手の甲に唇を当てた。
あたしが欲しかったのは、早瀬の心。
あたしは、ただ単に早瀬を忘れられないほど、大嫌いだと思うほど、早瀬を好きだっただけ。