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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「ごめんなさい、守ってくれているのを知らずに、あなたを嫌がって」
止まっていた、シンデレラの時間が進み出している。
その先に待ち受けるのはみすぼらしい姿なのか、お姫様の姿なのかわからないけれど、あたしの凍てついていた心は溶かされた。
「そしてありがとう。昔も今も、守ってくれて」
誰よりも傷ついた早瀬の言葉で時間を止められ、同じ早瀬の言葉で時間が動き出す。
あたしの時間は、亜貴では動き出していなかった。
早瀬ではないと、あたしは前に進めない。
「……柚。俺……お前が好きだ」
あたしが昔から好きな、早瀬ではないと。
「九年間、そしてこれからも……、俺はお前だけが好きだ。昔だけではなく、今も……苦しいくらいに好きなんだ」
あたしの反応を見るかのような、王様にはありえない、怯えた……震える声が愛おしくて。
「言葉でどう言っていいのかわからねぇ。どう伝えていいのかわからねぇ。出来るもんなら俺の胸の内を見せてやりてぇ。どれだけお前のことを想っているか」
「……っ」
早瀬の愛情に胸が押し潰されそうになる。
こんなに想われていたのに、あたしは過去に囚われて、目を向けることが出来なかった。
「……家族や処女なんてまるで関係なく、俺は十二年前から。上原柚、その名を持つお前だけに恋い焦がれて生きている」
必死に言葉で伝えようとしてくれる早瀬。
その言葉に、その想いに胸がぎゅっとなる。
あたしも――。
「……あたしも、高校からあなたが好き。傷つけられても苦しませられても、今も……あなたが好きよ、須王」
泣きながら笑って言うあたしに、早瀬は……須王は、静かに一筋の涙を零しながら笑った。
とても美しいその笑みを、なにかから解放されたような笑みを、きっとあたしは生涯忘れられることは出来ないだろう。
それはあたしが好きになった高校時代の須王であり、そこから孤高の貫禄をつけた王様の須王であり。別人のようで同一の人物像が、あたしの心の中で重なった。
あたしの恋が、今……完全に繋がった。
あたしは音楽室の須王に恋して、今に至っている。
きっとあたしは、この先も須王ひとりを愛するのだろう。
この先どんなに傷つけられても、あたしは孤独なこのひとを守りたい。
必死に音楽に助けを求めたこのひとを――。