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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

 自然と唇が重なった。

 それは、人生上初めて唇を合わせるかのように、とてもぎこちないキスで。唇を離しても、須王の優しい瞳に吸い込まれるようにして、また唇が重なって。

「俺の柚……。俺だけの――」

 譫言のように呟いた須王は、あたしの両頬を両手で固定し、覆い被さるようにして、角度を変えながら深いキスを始めた。

「ん……ぅんん」

 堰を切ったかのような荒々しい須王のキスは、どこまでも情熱的なもので、あたしはその奔流に身を委ねるしか出来なくて。

 身も心も甘く蕩けるように感じるのは、そこに須王の心があるからなのだろう。須王の愛を感じて、また涙が流れた。

 須王が好き。
 泣きたくなるほど、切なくなるほど須王が好き。

 須王は舌を絡ませるキスを続けたまま、あたしを抱っこするようにして、枕元にオレンジの常夜灯がついているだけの寝室に移動する。

 広いベッドに置かれると、スプリングにあたしの身体が跳ねた。

 唇が離れて、須王が首を傾げるようにして言う。

「抱くよ?」

 彼の髪がひと束、頬から滑り落ちた。

 まっすぐで熱い眼差しは、あたしの心を射るかのように。

 ドキドキして照れてしまったあたしは、横を向いて言った。
 
「……お風呂」

「却下。そのままの柚を抱かせて」

「でも……」

「もう待てねぇ」

 顎を摘ままれ正面に戻され、また濃厚なキスが落とされた。

「……っ」

 甘いのか、意地悪なのかわからない。

 だけどあたしも、お風呂に入るより……須王の肌に触れたかった。
 ……早くひとつになりたかった。 

 東京の夜景が見える須王の寝室で、まだ満月になりきらない月明りを浴びて、須王がシャツを脱いだ。

 スローモーションに見えるその仕草は、どこまでもセクシーで。
 露わになってくる身体の輪郭に、青白い燐光がまぶされたように幻想的に思えて。

 やがて筋肉の盛り上がりが見える、逞しい上半身が見えると、あたしはその傷がついた身体に驚いた。
 
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