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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

 衣擦れの音がやけに大きく響く室内。

 まるで初めてのように、こんなに心臓がどくどくと脈打っているというのに、

「……ああ、お前の心臓の音、聞こえねぇ」

 それをわかっているはずの須王は、キャミを脱がせた。

 あたしの身体に、肩でぶら下がっているブラが月に照らされて。なんだか恥ずかしくて、胸を隠す。

「お前……なに煽る下着つけてるんだよ」

 胸を隠した手は、彼の力に敵わなくて。

 須王の視線は、あたしのブラに注がれている。

「これ……棗くんのプレゼント。あなたが好きな色だからと」

 それは、赤みかがったワイン色の……まるでベリーで染めたような色の下着のセットで。
 
 せっかくのブラが、あたしの胸の前に中途半端に揺れているのも哀しければ、彼の反応もないのも哀しくて。

「その……、嫌だった?」

「そんなわけねぇだろ」

 須王はあたしを膝立ちにさせて、そのままあたしの腰に両腕を緩く絡めさせると、あたしを見上げるようにして言う。

 そのダークブルーの瞳の奥に、ゆらゆらと情熱の炎を揺らしながら。

「だから……お前がそんなのをしてくるなんて、反則なんだよ。それに、提案した棗がお前の胸の大きさを知っているって……。お前、棗に抱かれてねぇだろうな」

 苛立たしげに、切れ長の目が細められて。

「そんなはずないでしょう。棗くんは棗ちゃんみたいなものだし」

 いまだ思い出せない棗くんの昔の顔。

「だけどあなたが、そんなにベリーが好きだとは思わなかった」

「別にベリーが好きなわけじゃねぇよ。お前がベリーが好きだったからだ。だから俺は……」

 須王の顔がブラの生地の上から、あたしの乳房に噛みついた。

「……ベリーよりお前の方がすげぇ好き」

「……っ」

 胸の谷間から、こちらを見上げる須王の瞳が妖しく揺れる。

「食わせて?」
  
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