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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「泣く!? 泣きたいのはこっちの方なんだけど! 泣くほど俺に抱かれたくねぇの!?」
「違う、そうじゃなくて!」
「じゃあなんで泣くんだよ」
須王の向かい側に座らせられたあたしは、ぐすぐす泣きながら言った。
「面倒だって思われたから。ヤレない女はいらないと……」
「誰が言ったよ、そんなこと!」
須王は焦ったように声を荒げた。
「ため息、ついたから……」
須王は、腕の中にあたしを入れた。
ベリームスクの匂いが、熱と共に溶けて。
「ため息ついたのは俺に対してだ。お前じゃねぇよ」
「なんで自分に……」
「………。あれだけお前が傷を晒してまで、俺と前に進もうとしてくれたのに。俺は……そこで満足すりゃあいいのに、身体を繋げることしか考えてねぇから。今夜はいつもと違うとわかっていたくせに、半ば断定的に、今日は抱くという予定をそのまま断行した自分の浅はかさに、うんざりしてさ。……お前に、自分勝手だと言われたばかりなのに」
「別に須王のせいじゃない。あたしが……」
「いや俺のせいだ。お前をもっとデリケートに扱うべきだった。そう言われたばかりだったのに」
「いや、だからあたしが……っ」
須王はあたしを抱きしめたまま、あたしごとベッドに転がった。
そして優しくあたしの頭を撫でながら言う。
「ゆっくりでいい。ゆっくり……お前の心を繋がせてくれ。身体だけじゃなく、心も欲しい。お前に愛されていると思わせて欲しい」
「……っ」
「ごめんな、柚。俺、九年もお前に押しつけすぎた」
須王が、少し身体を離すと、寂しげな顔で笑う。
「九年苦しませて悪かったな。そのすべては取り戻せねぇけど、少しずつでも俺はお前に……」
そう、真摯ゆえに泣き出しそうに言うから――あたしは、須王の唇にキスをした。