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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
 

「どうした?」

 再度キスをして、須王の唇を、あたしの唇でもぐもぐと甘噛みするので精一杯で。

「今夜……あたしも楽しみにしていたの」

「え……?」

 ベッドに横になりながら、その距離は二十センチ。
 心をひとつにしたはずなのに、身体は距離が開いている。

「あたしも、須王と……繋がりたいの。身も心も。……もう、苦しい抱かれ方はしないのだと、幸せだと……思いたくて」

 震えるあたしの唇から出る素直な言葉に、須王の目がやるせなさそうに細められて。

「嫌とか拒絶しているとかじゃないの。その……いつもはあなたの姿が見えないから、それが目の前にいて……怖いというか」

「俺、怖い顔してた?」

「そうじゃなく……なんというか……意識しすぎて別人というか。肉食な男の目をしているというか」

「………」

「……なにか言ってよ!」

「いや……、お前時々……というか、結構直球だよな」

「いやいや、あなたには敵いませんけど?」

 何度言葉の羞恥プレイを食らったことか。

「……俺も怖いよ」

「え?」

「今まで後ろから抱いていたのは、俺なりの逃げ道だった。お前に嫌われても嫌がられても、後ろからならその顔が見えないから」

「……っ」 

「だけど……お前が感じている顔も見えなくて。……俺はお前の名前を呼んでるのに、お前は俺の名前を呼んでくれねぇのも、お前の心だと思って……自業自得とはいえ、結構キツくて」

「………」

「実は俺、今夜お前と両想いになるとは思ってなかった。色々あって僅かに好感度が上がっても、今までが極端に好感度がマイナス過ぎたから、幾ら上がってもプラスにはならねぇだろうし、プラスがどうすれば愛になるのかもわからなければ、そもそもどうやれば好感度って上がるのか、俺にはわからねぇし」

 ……このひと、王様のくせにそんなこと考えていたんだ。
 
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