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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「……笑うなよ。自分でもダセェと思うくらいには、お前を相手にどうしていいのかわからなかったんだ。だから強引にいくしか出来なくて」
「………」
「だから今、前から抱こうと決めても、やはり今までのことを思い出せば怖いよ? やっぱり嫌だと言われたらどうしようとか、お前が感じなかったらどうしようとか……。緊張しているよ、俺も。初めての時みてぇに」
あたしは――声をたてて笑ってしまった。
「そんなに大声で笑うなよ。自分でもダセェと思ってるって。なんでスマートに出来ないのかと……」
自分も同じなのだと、わざと恥を晒す須王が、愛おしくて。
「本気にお前相手になると、どうしていいかわからねぇんだ」
……愛おしいひとに、もっとあたしを見て貰いたくて。
もっと、距離を縮めたくて。
このひとなら。
あたしを命をかけて守ろうとしてくれた、須王なら……。
正直、心の傷は完全にはなくならない。
ただ、須王の言葉によって止められていた時間が動き出し、前に進めるような気分になっただけ。
須王も守るためとはいえ、もっと方法はあったはずだとは思うけれど、そんな凄惨な環境で、あたしだって正しい答えを導き出せたとも思わなかったから。
この九年、彼にも葛藤や苦しみがあった。
それを感じさせた須王の告解だったから、あたしは言葉に込められた須王の心という旋律を大切にしたいと思うんだ。
今のあたしは、それだけでいい。
あたしひとりが苦しんでいたわけじゃないのだと。
須王も同じだったのだと、思うことが出来たのなら。
あたしはもう苦しみたくない。
過去に囚われずに、前に進みたいの。
だからこそ――。
あたしは、ちゅっと啄むようにキスをした。
「……須王、好き」
「……っ、だからそういう不意打ちは……」
またちゅっとキスをする。
「あたしも、あなた相手になにをどうしていいのかわからないけど……、だけど、少しずつ……一緒に行こう?」
「柚……」
「九年の傷は消えてなくならないかもしれないけど、痛みを感じないようにするのは、須王しか出来ない。痛みを感じないように……あたしを愛して」
ダークブルーの瞳が揺れた。
「あたしの痛みは、須王だけしか消せないの。だからあたしの九年の苦しみの分、いっぱい愛して。……今度はちゃんと正面から」