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エリュシオンでささやいて
第7章 Overture Voice
「須王……頑張らなくていい」
あたしは、須王の両頬を手で挟む。
「あなたは十分に頑張ってる。だから、あたしのために無理をしないで。あたし……頼りないかもしれないけど、あなたの安らぎになりたいの」
小さい頃から銃を持たされた須王。
傷だらけの身体をした須王。
もしもあたしとの出会いが、彼のそうした凄惨な人生を少しでも変えることが出来るのなら……。
「あたしが、須王を手放さないから。だから……安心して?」
彼はまだなにかがあるのだと、感じた。
いつよりも、近い場所で彼の葛藤をあたしの身体が感じていた。
彼は、後ろで抱く時よりも、なにかを抑えている――。
正面から抱きたいと言ったのは須王。
しかし彼はなにか……またお得意にあたしを高みにあげることで、……まるで心が繋がったこの一夜を、心の拠り所のない思い出の一頁にしようとしているように思えて。
ある種、諦観や達観。あたしを切り捨てるための――。
冗談じゃないよ。
なんのために、あたしがいるんだ。
なんのために、あたしは泣いて苦しんできたんだ。
「あたし、根性だけはあるつもりだから。はは……そう考えれば、あなたにフラれたのも、ピアノが弾けなくなったのも、エリュシオンも……いい修行だったね」
「柚……」
彼の瞳が怯えている。
「須王……、怖いことはないよ。あたしは……あなたがいてくれれば、あなたがたとえ名声がなくなっても構わないから。あたしが好きなのは、須王だから。……ずっと囁いて。あたしの名前を呼んで。それだけでいい」
須王はあたしの唇を奪った。
唇は、荒々しくも切ない……、彼の心を伝えてきて。
「本当に、お前が好きなんだ。お前は……俺の光で」
絞り出すようなその声に、あたしの心が切なく音をたてる。
「あたしは光じゃなくて、ただの女だよ。須王に抱かれて、幸せだと思ってる……「だからなんでお前は、直球なんだよ……」」
須王があたしの首筋に顔を埋めた。
……彼は結構照れ屋だ。自分ではもっと言うくせに。
「俺のどんな言葉も、お前のひと言には敵わねぇな」
彼はふっと笑い、顔を上げる。
その顔は頼りなげな怯えなどなく、艶めいた男の顔で、あたしの身体が疼いた。