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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

「………」
なんというか、全裸のまま美形が歩くのって絵になると思っていたけれど、美しいお顔と長い手足と逞しい胸板はいいとしても、今まで繋がっていたものも目に入ると思えば、なんだか生々しい気がして、それを見る前に思わず目をそらす。
あたしだって、まだ女の子なのよ。……ぎりぎりだけど。
そんなあたしの戸惑いを知らずに戻って来た須王は、あたしの上体を起こすと、なにかを差し出した。
「これ、使ってねぇから」
……それは通帳だった。
記載されている口座番号は、毎月借金返済のためにと振り込むように指示されていたものだ。
「え?」
なんで返されるんだろう。
「お前に返す。そして……もう要らねぇから。借金返済終了、今まで毎月欠かさず、ご苦労様」
須王は笑って、あたしの頭を撫でた。
「お前の積立金、結構貯まったぞ?」
「な、なんで……っ」
すると彼は薄く笑った。
「元々お前から取る気はなかった。なにが嬉しくて、心底惚れた女から金を毟り取って抱くかよ。……そうしてまで、お前が欲しかった。お前を俺のものにしたかったんだ。お前を縛る名目に使っただけだ」
「……っ」
須王の告解は切なくて、あたしの手に握られた通帳が震えた。
――これは契約だ。ヤクザに売れる体なら俺に売れ。俺が抜きたい時に性処理としてお前を抱く。拒絶したら契約は白紙だ。
……あたしは、その言葉を信じてきた。
彼の真意は……こんなにも切なすぎて泣きそうだ。
半年、あたしは見当違いの思いを向けられているのだと思って、抱かれてきたというの?
その真偽は、今の彼の表情とその言葉の音から真実だとわかる。
どうしてあたし、今まで彼の心がどこにあるのか、見抜けずにいたのだろう。どうしてあたし、ひとりで苦しい想いをしてきたんだろう。
セックスまでして、彼の近くにいたはずなのに――。

