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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 


「……っ」

 あたしは震えたまま、通帳を開いてみた。

 それは半年前から、毎月給料が出た日やあたしの預金を振り込んだ金額が、預金の部分だけに記載されて、合計金額だけが増えていた。

 一千万には満たないが、あたしが把握しているのと同じ金額が、そこにはあった。

「いつか、要らねぇと言おうと思いながら、そう言ってしまったら、お前に見向きもされなくなってしまう気がして。だから言えずにいたんだ。半年も」

「でも、現実にあなたから借金を……っ」

「お前を手に入れるために投資した金だ。なにも惜しくねぇ」

「だけどっ」

「いいんだよ、お前が傍にいてくれるのなら、それだけで」

 優しく言うと、須王はあたしを抱きしめ、耳元に囁いた。

「俺の傍に、ずっと……居てくれるだろう?」

 懇願するような頼りなげな声に胸が絞られる。

 彼はきっと不安なんだ。
 あたしを傷つけたという後悔や罪悪感があれば余計に。
 
 ……あたしですら、あたしの無意識レベルでは彼を許せていないかもしれないんじゃないかという不安はある。彼を好きだと自覚すればこそ、それだけですべてを許せるほど、あたしは出来た人間ではないということがわかっているゆえに。

 許したいと思える前向きな気持ちだけが、今のあたしのすべてだ。
 これからの時間がきっと、それを解消していくのだろう。
 
 だけどこのまま、今の状況が続いていくという保証はない。
 きっと、そこを彼は憂えているのだろう。

 ああ、どうして恋愛って。
 今が好きで幸せだからと満たされずに、未来に不安にもなってしまうのだろう。 

 彼は王様なのに。
 ……王様だからこそ、未来に続く環境は不安定だと見越しているとか?

 あたしには未来を見通す力はないけれど、あたしは今の心を信じることしか出来ないけれど。

 それでも、彼のために出来ること――。

「うん、傍にいるよ」

 頷きながら、あたしは言った。

「でも……お願い。お金は返させて」
 
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