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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「要らねぇって」

「返済の間は、あたしはあなたに抱かれるために、あなたの傍を離れられない。……そういう契約でしょう? だからあたしは、責務を果たすために契約履行をしたいの」

「………」

「返済が終わってないのだから、消えていなくならない。あたしは借金を放置したまま、あなたの前からいなくならない。これは、そういう契約でもあるの」

 わかってくれるかな。

 契約はあたし達を結びつける縛めになる。
 あたしが泣いて呪った関係は、未来への確実な束縛となる。

 今度は、あたしが望んだ形で――。

「返済が終わったら?」

 ぼそりと尋ねた須王に、あたしは笑った。

「また契約すればいいでしょう?」

 自由すぎる未来に怯える須王は、この確約が安心になって欲しい。

 きっと彼は、制約されてがんじがらめになりすぎた環境で慣れてしまっているのだ。だから、仕事も平気でこなせて苦に思わない。

 だったら、あたしが彼の未来を縛ればいいと、思ったんだ。

「あたしはまたお金で、あなたの無償の愛を買うから」

 おかしな愛の形――。
 
 だけどわかりやすいそれこそが、あたしの無償の愛だとわかって欲しい。

「金を払うのに、無償の愛?」

「そこはいいのよ、ニュアンスを取ってよ。あたしが言いたいのは……」

「……ありがとう。そうやって、俺を縛ってくれて」

 須王はわかっている。
 あたしの言葉に潜む真意を。

「じゃあ俺、お前から金貰ってお前の愛も貰うわ。両得だな、この契約」

 だから、わざと揶揄するように言ったんだろう。

「あら、あたしだって契約中は、ちゃんと守って貰いながら、あなたの愛を貰うのよ。そこ、惜しんだら契約終了だから」

 ……不器用だな、あたしも彼も。
 だけど恋愛初心者なんだから、仕方がないか。

 恋愛のいろはがわからないから、押し通すしかない。
 一緒に、少しずつ進んでいくしかない。
 
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