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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「……別に金、いらなくね?」

「いるの! 契約なんだから」

「俺、貰っても金使わねぇぞ? エリュシオンからふんだくったもの以外にも、色々と入ってくる自分のがあるし」

「本当に、売れっ子プロデューサーは言うことが違うわね。あなたは金遣いが派手なんだから、老後に備えればいいじゃない」

「老後は……」

 須王は身体を離すと、切ないくらいに直線的な目を寄越して言った。

「お前がいれば、それだけでいい」

「あはははは。契約が切れていなければ、あなたの傍にいますよ?」

「……きっとお前の人生を縛る契約は、この他にすると思うけど」

「え?」

 まるでプロポーズみたいで、思わずどきりとしてしまった。

「……今は俺の願望だ。ちゃんとしたら、契約させるよ」

「な、なんで上から目線?」

 ドキドキしすぎて、声がひっくり返れば、須王はそれを見抜いたように呵々と笑うが、そこには触れなかった。

「お前には、俺はこうなの!」

「誰にでもそうじゃない」

「お前にだけだよ。お前は特別なんだよ」

「真顔でストレートに言わないでよ」

「はは、真っ赤」

「誰のせいよ!」


 ふたりでひとしきり笑った後は、自然に無言となり、濃厚なキスを繰り返して身体が火照り、また須王に抱かれた。

 夜はまだ明けない――。


 ねぇ、他の契約って……なにを想定したの?
 そのためになにをしようとしているの?

 あたしは、そこまではあなたに求めない。
 あなたは、世界に羽ばたける自由なひとだから。
 あたしは、あなたの安らぎになれるのなら、形式なんてこだわらない。

 だけど、今まで交わらないと思っていた彼の未来に、あたしも入れてくれているんだと思ったら、なにか嬉しくて……、須王に気づかれないように涙を零した。


 
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