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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 


 *+†+*――*+†+*

 愛し合った夜が明けた朝、心地よい夢から覚めると、須王が隣にいない。

「え……」

 シーツは冷たい。
 彼が戻らずに時間が経っていることを、顕著に示していた。

 置いて行かれたの?
 あたしは、また?

 あたしの傷口がじくじくと膿み、パニックになりかけたその時、ピアノの音が微かに聞こえた。

 この家にはあたしと須王しかいないはずだ。
 あたしではないのなら、須王が弾いている――。

 どこからピアノが聞こえるの?
 須王はどこにいるの?

 全裸は恥ずかしいから、薄い毛布を身体に巻き付けながらベッドから降りれば、音が聞こえるのは、彼が通帳を探してきた隣室だった。

 静かにドアを開ける。

 そこには、アップライト式の……まるで高級バイオリンのような艶やかな茶色いピアノがあり、須王は椅子に座ってピアノを弾いて、譜面台にある紙に、なにかを書き入れていた。

 床には、沢山もの紙が散らばっていた。

「須王……?」

 あたしが声を発する前に、びくっと広い背中を震わせた彼は、あたしに振り向いてバツの悪そうな表情を見せる。

「悪ぃ……。起こしちまったか」

 部屋は、スタジオでの彼の作業部屋と変わらず、たくさんの楽器とパソコンが置かれてあった。

「お仕事?」

 ちょいちょいと指で招かれて、彼の仕事部屋に足を踏み入れると、須王は両手であたしを持ち上げ、彼の膝の上に後ろ向きに座らせた。

 ……いつも軽々と持ち上げられるけれど、あたしが特段軽いわけではない。それなりにしっかりと体重があるのだから、それを持ち上げられる須王の筋力が凄いんだ。

 ズボンを穿いていて、ちょっぴり安心。

 彼は後ろからあたしを抱きしめ、あたしの肩から顔を出しながら、耳元に囁く。
 
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