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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
  

 そんなあたしの不安をよそに、須王が実に満足げだ。

「よし、できた」

 なに?
 一体なにを持ってくるつもりなの!?

 彼はそれをスープ皿に入れて持ってきた。

 泡立てられた表面は、うっすらと色づき始めたような淡いピンク色の泡がもこもことあり、真ん中に親指の腹くらいの大きさの、赤く丸いものが数個、泡に埋もれているようだ。

 とても綺麗で、毒々しさが薄まっていた。

「それはなに?」

「ハンガリーあたりで飲まれるフルーツスープ。お前、甘いの好きだろう? ……ベリーがなくて悪いが、サワーチェリー(酸味の強いチェリー)しか置いてなかった。泡立てるのは、恐らく個人の好みだろうな。俺はこっちの方が好きなんだ。色的に」

「え、フルーツスープって、この甘い匂いがしているのはスープなの?」

「ああ。本場ではメインの前に飲むらしい」

 メインの前の甘いスープ!?

「飲んでみろ」

 促されるまま、好奇心と不安さを半々に織り交ぜて、恐る恐るスプーンでひと口。

 泡の下は本当にピンク色の、冷たく甘酸っぱい液体だった。
 ジュースのようだが、そこまで軽さはない。

「美味しい!! これ、スープというよりデザートだよ!! え、このとろみはなに? 味もシロップじゃないよね?」

「サワークリームと生クリームや小麦粉が入って煮詰めている。ベリー好きなら、こういうの、好きかなと思って」

「好き、好き!」

 あたしは感激に目をうるうるさせて、興奮気味に言った。

「あぁん、もう! どうしてこんなにあたしのドストライクにくるんだろう。めっちゃ大好……んんっ!?」

 喜ぶあたしの口が、突如彼の唇で塞がれた。

「俺以外を、気軽に好き好き言うな」

 むっとして、スープを飲んでいるようだ。
 あたしは釈然としない。
 
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