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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
とりあえずは任務を果たしたから、お互い隣室で行われている会議に出るために別れようとしたら、早瀬があたしの腕を掴んで言う。
「礼はする」
ありがとうは言わずに、ぶっきらぼうに前髪を掻き上げながらそう言った。
「いりませんので」
そんなことをされたら、後で倍返しにされそう。
「する。夕食どこがいい?」
あたしは背筋がぞっとする。
うわ、今夜も一緒決定なの?
勘弁だってば。
「いりません。どうしてもというなら、今夜は帰らせて下さい」
嫌だと拒否しようとするあたしに、早瀬は思いきり不服そうに顔を歪めて。
「人選」
まるで天下無敵の黄門様の印籠を出したように、超然とそう言った。
「それはやります。だけど夕食は家でひとりで食べたいです。借金帳消しにしろとは言ってない。ささやかなあたしの願いを叶えて下さい」
「……わかった」
あたしはほっとした。
「じゃあ昼な」
わかってなーい!!
とにかくあんたと一緒に居たくないのよ。
ご飯の時くらい、リラックスさせてよ。
「お昼は、上で友達と食べる約束なんです!」
しかめっ面で牽制。
「へぇ、友達がいたとはな」
「この会社にいなくても、お昼の時にお喋り出来る子が他会社にいるんです!」
「へぇ。どんな奴? 俺の誘いを断れる、そのお友達は」
信じてないな、そのむかつく目!
だからあたしは言った。
最近、上階パラダイスで見かけなくなった〝昼友〟を。
「下のシークレットムーンの、斎藤千絵ちゃんですっ!! お疑いなら、下のシークレットムーンで千絵ちゃんに聞いて下さいよ! あたしの名前を言うだけで、千絵ちゃんなら色々話してくれますから!」
千絵ちゃんは髪も性格も、ふわふわとした話し好きな子だ。
女帝腰元の最年少の美保ちゃんに通じる、男性の前ではちょっと媚びる感じはするけれど、凄くよく気がつく子。他会社にもたくさん友達がいて、ビルの噂とかたくさんの情報持ちで、色々話してくれる子なんだ。
でもここ数日、千絵ちゃんを見かけていない。
もしかすると出張とかなのかもしれない。