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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「千絵ちゃん、ねぇ?」
「では、会議に行って来ます!」
打ち合わせノートと筆記用具を持って、育成課の定例会議に赴く。
さあさあ仕事、仕事。
HADESプロジェクト会議は、きっと午前中ずっとしているだろう。
その間に300円で美味しいものが食べられるパラダイスでお昼をとればいいと、そうにんまりと笑ったことを後悔するのは、その数時間後のお昼のことだった。
*+†+*――*+†+*
「はい、上原さん。トマトとモッツァレラの冷麺パスタに、上原さんが大好きな柚ジュレをたっぷり乗せましたよ」
そう言ってくれるのは、厨房から顔を見せてくれる食堂パラダイスの調理人、宿直隆(とのい たかし)。
専門学校を卒業した彼は、今年入ったばかりなのだが、彼が来てパラダイスの食事がさらに格段とおいしくなった。
あまりに美味しくて、いつも挨拶をしているおばちゃんにそう感想を告げると、おばちゃんが笑って紹介してくれたのが隆くんだった。
――隆は私の甥っ子なんですよ。よかったねぇ、隆。色々と献立考えて、試行錯誤して作っていた甲斐があったねぇ。柚ちゃん、気に入ってくれたようだよ。
それ以来、隆くんにいつも感想を告げていて、特にあたしは柚が好きだから、それを知る隆くんはこっそりと量を増やしてくれたり、フルーツを多く入れてくれたり。
隆くんは髪を伸ばした野球男児のような印象で、女慣れしていない硬派な感じがするけれど、あたしの「美味しかったよ」のひと言で、ふにゃりとして真っ赤になって嬉しそうに笑う顔が可愛くて、弟みたいに思っている。
「うわあ、本当!? 今日も期待してるね。ありがとう」
「はい、期待していて下さい」
隆くんと話していて、食堂がいつもより騒がしかったのに気づかなかったあたしは、隆くんにひらひらと手を振って、窓際の二人がけの特等席に座る。
「なんだか今日はいい日だよね。柚ジュレに、ここも空いていたなんて!」
千絵ちゃんがいつも現われる時間帯は決まっているから、あと五分食べずに彼女を待って居ようと、窓の外を眺めていた。
ホテルで高級ランチをしているような気分。
見事なロケーション、見事な(安い)料理。
ただなんだか、今日はがやがやと人の声でざわついているけれど。