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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「うわうわ、泳ぐのなし!」

「お前が逃げるからだろう!?」

「だから、追いかけてこないで~!!」

「それは無理。俺、お前に背中向けられたくねぇし」

「向けないから!」

「後ろ向きで移動するな、ってほら!」

「きゃああああ!!」

 後ろに転倒しようとしたあたしを、須王は素早く支えてくれた。

「本当にお前は、危なっかしいな」

「ご、ごめん……」

「俺がついてやらねぇと」

 彼はそう言いながら、あたしを強く抱きしめる。

「俺が、必要だろ?」

 彼は凄く不安がっている。
 ……もしかすると、あたし以上に。

 ねぇ、あなたが感じているものはなんなの?
 あたしとは違う類いのものなの?

「なぁ、柚……」

「ん……必要。ついてて、ずっと」

「ああ……」

 あたし達が暴れていたせいで、水面がゆらゆらと揺れている。
 その波は止めどなく、まるで大きい波が後から来るかのように、なにか不穏な動きのようにあたしは感じてしまった。

 どうすれば彼の不安は払拭出来るのだろう。
 言葉以外に、あたしに出来ることは――。

「……もう上がろうか。風呂に入る時間がなくなる」

 彼があたしの肩を抱くようにして、プールサイドに上がる段に向かう。

――いい、柚。男は愛されているっていう自信が欲しい生き物なの! それが強さになるの。私は程度がいきすぎたけど。

 愛しすぎて重荷になってしまった過去を持つ、女帝の教訓が蘇る。

――だとしたら、柚だけが出来ること……他の女にはさせたくないもので、柚だけが出来るものを……。たとえばね、柚……。

 段に足を着いて、あたしに手を差し伸べる須王。

「……あのね、ちょっと……座ってくれる? そこで」

「ん? お前は?」

「あたしはちょっとここからしたいことがあるの」

 須王はわけがわからないという顔で、段に座って足の甲を水に浸ける。
 
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