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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
あたしは彼の無言の指示の元、ドアの横側の壁に背をつけて立ち、息を詰めて待つこと、きっかり三秒。
ドアノブが静かに動いた瞬間にドアを大きくこちら側に開けた須王は、少しよろけて出た、それの腹に拳を繰り出した。
動いた相手の手が須王の手を弾くと思った瞬間、触れる寸前で拳を止めた須王は、反対の手で目潰しをして、直後に寸止めをした拳をそのまま腹に入れ、前屈みになった相手の喉元に伸ばした腕で押さえつけるようにして、そのまま手を回すようにしながら、相手を仰け反らせながら仰向きに倒した。
あたしが驚いたのは、須王の鮮やかな体術だけではない。
須王が相手にしたのは、黒服でも厳めしい男達でもなかったからだ。
「な、なにをするんですか!」
床に尻餅をついたその人物は、コンシェルジュのお姉さんだったのだ。
「しらじらしいな。俺にブランクがあるとはいえ、俺の動きに反応していたくせに」
須王は彼女の腕を後ろ手に取りながら嗤う。
「わ、私は……っ、護身術を習っていて……」
「ほう? だったら、なぜ中にいた」
「そ、それは……連絡がありまして」
「どんな?」
「早瀬様のお部屋から、異臭がすると」
「……で、なぜ家の中に入る。コンシェルジュだというのなら、留守中、中に入るのは規約違反じゃねぇか」
「そ、それは……早瀬様になにかあったのだと」
「ふぅん? 上に行っていると予約をしたのにか? 手配したのは誰だ?」
「そ、それは……っ」
「それに、予約したのは四時間だが、二時間が一度の予約の限度だと、それがルールとは習わなかったのか? 二週間、コンシェルジュをしていて?」
もしかして須王は、あたしがこのマンションに来た時から、なにかコンシェルジュに違和感を感じたのだろうか。
だからきっとわざと切り上げたんだ。
……この先に、なにか不穏な動きが起きることを感じて。