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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「二時間しねぇで帰るとは思わなかったから、中に入ったんだろうが。ゆっくり、異臭の元を設置して」
「ち、違います! 予約を四時間で入れたのは、空いていたからです! だから……」
コンシェルジュは泣きながら、あたしに助けを求める。
「本当です。信じて……」
「信じて欲しいなら、このまま中に入れ。柚、俺の後ろに」
須王は彼女の喉元を後ろから腕を巻き付けるようにして締め上げながら、あたしの盾として中に入る。
……確かに、花火のような匂いはしている。
だけど外からはそんな匂いはしなかった。
異臭だと騒げるだけの匂いは、外に漂っていないことは事実。
「で、この部屋の異臭は見つかったのか?」
「そ、それは……」
「まさか、異臭がなかったとは言わねぇだろう。こんなにしている中で。ど素人の柚ですら、この匂いを感じているというのに」
褒められているのか貶されているのか微妙だ。
「位置を示せ。お前が俺を助けようとして中に入ったというのなら、わかりやすい異臭物の元を見つけてねぇとは言わせねぇぞ?」
「リビングの、ま、窓の傍に……」
コンシェルジュは、観念したようにダイニングが見えるリビングを指さした。
それは斜め側……ソファの近く。
確かに、なにか紙袋が置かれてある。
「じゃあ、一緒にあそこまで行こうか」
「え……」
コンシェルジュは明らかに戸惑いを見せた。
「どうした。案内しろよ?」
須王は強制的に彼女を連れて移動し、紙袋は真っ正面の方向へとなる。
「……ご、ごめんない。頼まれただけなんです。袋を、窓際に置くようにと」
「誰に」
「それは……」
コンシェルジュは泣き出してしまい、嗚咽ばかりで埒があかない。
本当に、このひとはただ置いただけじゃないか?
そう思えてしまうあたしとは違い、須王は笑い出す。
「いいなぁ、泣くのを武器にして、素人ぶる男は」
「え、男!?」
あたしは驚いた。
どう見ても、お姉さんじゃないか。