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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「喉仏も出てないよ!?」
喉だって華奢でするっとしているし、肌もきめ細かい。
「棗だって出てねぇだろ。女体化の措置を受けた奴は、外見なんて関係ねぇ。まあ性器はつけたままかは場合によるが」
女体化の措置?
なに、それ。
「悪ぃが、棗を超える逸材は見たことはねぇ。俺は、お前が二週間前に受付に現われた時点で、男だと思っていた。そういう元男だと思っていたから放置していたが、まさか事前からそんな計画に俺も組み込まれていたとはな」
OH、だからなんでわかるの!?
あたしは、初めて見た時から男なんて微塵にも思わなかったのに。
今だって、服を剥いで確かめたいくらい、外見からはまったく異性とは感じない。
……もしかして、須王に媚びを売っていなかったからとか?
確かに、見慣れた……ねっとりとした視線はなかった。
でもそれは、お仕事だからとあたしは思っていたけれど。
なんかそれ、天然か人工的か、あたしが区別つく判断になるかも。
ということは、彼はいつもそんな熱視線の中にいるということなのか。
凄いモテまくり人生だ。
……ふぅん。
「な、なにを言っているんですか。私は、普通の女です。ただ、脅されただけなんですっ」
須王は、ふっと口元で笑うと言った。
「〝我らは永久の闇より汝を求めん〟」
途端、彼女がびくっと身体を震わせて、嗚咽が止まったのは刹那の時。
「手の内はわかってんだよ」
須王はコンシェルジュを、紙袋のところに乱暴に突き飛ばした。
「爆発しちゃう!」
「いいや……」
突き飛ばされた彼女が普通人とは思えない迅速さで、紙袋には顔を突っ込まず足一本で踏みとどまった瞬間だった。
キラキラと三度、なにかが窓の奥で光った。
彼女が驚いた顔で、窓の外を見る。
その刹那――。
バリィィィン!
静かだけれど、異質で不穏な音と共に窓が割れる音がして、驚いたままのコンシェルジュがコメカミから血を流した。
バリィィィン!
第二弾が紙袋を貫く。
「柚っ、伏せろ!」
須王が呆然と立ち竦むあたしを床に押し倒すように覆い被さってきた瞬間、窓硝子が吹き飛ぶような爆発が起きて、コンシェルジュが吹き飛び、外のベランダから落ちた。