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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「え? あ、別にチラシは確認したことないけど……あれ、百鈞で買った可愛い花柄の包みのティッシュを使っていたはずだったけど。どこかで貰ったかな……」
須王が袋を破り、中にある折り畳まれているティッシュを取り出し、伸ばしていく。
すると下になっていたティッシュの中に、小さな錠剤くらいの何かがあった。それを親指の腹に置いて見ていた須王は、人差し指と共にぷちりと潰した。
「発信器だ」
「な、なんの?」
「GPS。お前がどこに移動したのか、筒抜けだったわけだ」
ダークブルーの瞳を、剣呑に細める。
「え、なんでこのティッシュが……」
「木場のコンビニが怪しいがな」
「え?」
「コンビニで黒服達が来たろう。あの時、お前のカバンの中に忍ばせたんじゃねぇかな。まあエリュシオンで入れられた可能性もあるが」
「そんな……」
コンビニ――。
あの時は、黒服退治に夢中になっていて、仮にカバンに手が伸びていたとしても、なにも気づかなかっただろう。
しかも折りたたまれたティッシュを一枚一枚皺を伸ばさないと、もしかして鼻や口を拭いて捨てたかも知れない……こんな巧妙な忍ばせ方、絶対なにか仕掛けられているなどわかるはずがない。
そりゃあ警戒してバッグの中を綺麗にしていたとしても、無料で貰ったティッシュはねぇ。使っちゃうもの。
「ご、ごめん……」
「なんでお前が謝るよ。俺が気づかなかった、俺のミスだ」
須王は胸の中にあたしを入れた。
仄かに硝煙とベリームスクの匂いが混ざり、まるでワイルドベリーだ。
「スタジオに戻ろう。ちょっと棗に電話するから、お前支度していろ」
「わかった」
「顔、強張ってる。大丈夫だから。な?」
「……うん、今回もありがとう」
「どういたしまして」
少し気取って返した須王に笑ってしまった。