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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
あたしは寝室で、服などをボストンバックに詰める。
コンシェルジュは紙袋だけを置いていったのだろうか。
なにか細工とか、盗んだものはないだろうか。
そう思い、服も払いながら詰めていくが特になくなったものはない。
「あれ、棗なんで出ねぇんだろ」
そんなぼやきを流しながら聞いていたあたしは、隣の仕事部屋にも忘れ物がないか覗いた。
「あ……楽譜メモ、余計に散らばってる」
記憶より散乱しているということは、コンシェルジュはこの部屋に入ったのかしら。
まさかこんな不可解な暗号みたいな楽譜を盗んではいないだろうと思いながら、よく見れば右上に数字らしくものがついているのがあることがわかったため、ばらばらで集めるのもなんだし、数字があるものは順番に集めようと思い、しゃがみこんで数字を追った。
この数字は順番なのか、作品番号なのかもさっぱりわからないけれど。
「あれ? 九番目がない?」
姿勢を低くして一枚、遠くに落ちていないか探したけれど見当たらない。
「あ……そこになにかある」
それは机の裏側だった。
「よしよし九番目だ。これで順番通りだわ」
何気なくそれを見たあたしは、次第に顔を曇らせた。
「なに、これ」
もう一度じっくり見る。
それは、天使が歌っていた――あの音楽だったんだ。
いつも口ずさんでいたあの曲が、須王の字で書かれている。
「なんで!?」
驚いてよろけたあたしは机にぶつかってしまう。
朝までは、机上でセックスをしていてもつかなかった画面がついた。
強制終了するかどうか聞いている小さなウィンドウが開いている。
その後ろにあったのは――。
「柚、病院に行こう。小林が襲撃にふたりを守って怪我を負った。棗は……って、おい。どうした?」
「ねぇ、須王。なんであなた……あたしの家族を調べているの?」
須王の顔が強張る。
「なんでパソコンが……」
終了をせずに続行をした画面には、あたしの家族の盗み撮りをしたような、明らかに違うところに視線がある写真画像がたくさんあった。