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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

一.命じられた人間を殺せ
二.命じられたものを盗め
三.命じられた相手を身体で落とせ
四.命じられた嘘をつけ
五.命じられたものの意味を考えるな
六.命じられた相手を言葉で傷つけろ
七.命じられた相手の仲を裂け
八.命じられたもの以外の欲を持つな
九.命じられたものに怒りを持つな
十.命じられたものだけを考えよ 

――このうち、天使が唄ったという曲は、九番目。

 〝命じられたものに怒りを持つな〟

――棗も音楽は覚えているはず。俺が覚えている旋律を順に書き取ったのが、お前が拾ったというその楽譜だ。あとは勝手に俺が追加して、十五の組曲にしていた。ただ作っただけだ。

 そして彼は言った。

――俺が九年前、お前を傷つけたのは、六番目の音楽による。

〝六.命じられた相手を言葉で傷つけろ〟

 随分と音に溢れた組織らしい。

 彼は、ベートーヴェン 交響曲第9番「歓喜に寄す」についてはわからないと言った。

 天使はなにを告げようとしていたんだろう。
 この九番目の掟を、あたしに訴えたかったんだろうか。

 ああ、あたしの記憶は拉致されたのを見て終わりではなかったんだろうか。
 記憶は改竄されているのだろうか。

 誰によって?
 なんで?

――お前の記憶が正しければ、お前だけが見逃された〝特例〟があるはず。

 碧姉は、母さんに似て美しい容姿をしている。
 男が群がるような、艶やかな美貌の持ち主だ。
 
 ……あたしだけが違うのに。

――性処理の班は、金持ちに高値でレンタルされる。顧客の表沙汰に出来ねぇSMやスカトロを超えた残酷な趣味に付き合えるように仕込まれた女が選ばれ、趣味嗜好で殺されても罰金を支払えば許される。


 碧姉のように美しければ、使い途はあるかもしれないが、あたしはないのだ。

 ……もしかして、碧姉の妹だから見逃されたとか?
 可能性で考えれば、それくらいしかあたしに特別性がない。
 
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