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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「男もいるんだ……」
「ああ。まあでもここは俺も、足を踏み入れたわけじゃねぇから、あくまで仲間内での噂だがな。俺らは性処理は安全でいいと思っていたが、実際のところは俺らも性処理も身体と命を削っている同志には違いねぇな。顧客の嗜好で死んでも金で解決されるのだから」
そして――。
須王は、そんな組織に背を向けたというのに、あたしのために硝煙に包まれ、再び危機の中に身を置いている。
関わり合わねば彼も、生まれ変わった組織から狙われることもなかったのに。彼はまた、手を血で染めなくてもよかったのに。
「どうした?」
俯いて黙り込んでしまったあたしに、須王は片手であたしの額を小突く。
「お前、足を洗った俺を巻き込んだと、グダグダ思ってるんだろ」
「グ、グダグダって……」
「グダグダだろう、それは。考えても出口がねぇ。俺は事態がある程度予測出来ていて、了承した。俺が出来ることは、お前の危険を減らして敵の頭を叩くことだ」
「た、叩くの?」
「当然だろう。いつまでも逃げるわけにはいけねぇ。これは俺の過去との決別でもある。副業だ」
「副業って……」
「俺、きっちりお前から代金貰うつもりだから。知ってるか、男は危険であればあるほど、惚れた女に癒やして貰いたくなる」
「へ?」
「……俺しかいねぇだろ。物騒なお前を守れるの。他の男は無理だ、棗でも無理だ。俺以上に、お前に命がけの恋愛をしてる奴はいねぇし、俺が認めねぇから」
「……っ」
「赤くなるなよ、俺も赤くなるじゃねぇか」
「そ、そういうこと言うから……っ」
「俺のを舐めたお前よりは、控えめだろうが」
「だからそれ言わないで!!!」
「あはははははは」
……いいんだろうか、こんなに和んでしまって。
これはきっと、須王が創り出す空気だ。
それにあたし、甘えてしまっていいのだろうか。
聞けば聞くほど、辛苦を味わった彼と棗くんだけが、敵の正体がどれほど凶悪なものなのかを感じている。
あたし、守られているだけでいいの?
あたし、出来ることはないの?
考えれば考えるほどもどかしい。
記憶の所在すら、須王に指摘される始末だという自分の情けなさに――。