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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 



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 T大付属病院――。

 付属と言いながらも大学から離れた都心にある大きな病院で、全国の難病患者が救済を求めて駆けつけると聞く。

 実は亜貴も、かつてこの病院にも入院したことがあったりする。

 しかし、手術成功例数を名誉に重んじる病院において、リスクの高い困難な移植手術は躊躇され、さらには移植先に恵まれなかったことから、外国での移植を提案された場所でもある。

 なんとも複雑な思いで、半年ぶりに病院に足を踏み入れる。

 いつものように、一ヶ月前に予約していても八時間待ちとか普通の大学病院の混雑ぶりはここでの病院でも変わりなく、具合悪いひとにとって本当に救済場所になるのか疑わしい。

 具合悪そうにぐったりして身体を丸めているひと、暇でスマホを弄っているひと、治療ではなく話し相手を探しにきているひと……様々な個性を見れるのは、病院ならではの光景。

 須王が裕貴くんから聞いた、小林さんが入院している601号室は、亜貴がいた一般病棟とは違う特別病棟にある部屋らしい。

 一般病棟にもVIP室のようなものは上階にあったけれど、それとは別棟にあるという特別病棟。なにが違うのかと思えば、セキュリティがしっかりしていて、マスコミは迂闊に近づけない作りになっているのが大きいところだろうか。

 見舞客も事前に総合受付の連絡の上で許可を取り、身分証を見せてカードを発行して貰い、それを須王のマンションのように数回機械に読み取らせながら行かないといけない厳重さを思えば、特別病棟に入院出来る者がどんな者かは、容易に想像ついた。
 
 エレベーターを降りて、カード認証をして開けば――。

「すご……。誰かさんのマンションみたい」

 ピカピカに磨かれた白い床。
 独特のアルコール臭はするものの、一部屋しかないフロアには、ただの待合室とするには高級すぎるソファやテーブル、テレビなどが置かれてある。
 
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