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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

 ちゅぱりとわざとリップ音をたてて唇を離し、悪びれた様子もなくにやりと彼は笑ってみせる。
 
「す、す、須王~っ!!」

「言うより早く確実だろ? ま、そういうことだから」

 笑いながら彼はふたりに片手をひらひらと振り、別の部屋に行く。

「~~っ」

 あまりに恥ずかしくてめそめそとするあたしの前で、真っ赤な顔をした裕貴くんが目を泳がせて言う。

「……ま、まあ……よかったよ、うん、よかったんじゃないかな、柚。なんだかあのひとの開き直った独占欲で、柚がこの先もさらに迷惑被りそうな気はもの凄くするけど。うん、でもまあよかった。あのひとも自慢したいほど嬉しくて上機嫌だということもわかったし」

 女帝も目を泳がせた真っ赤な顔で言う。

「うん、なにかを吹っ切ったというか、凄くご機嫌だったわよね、早瀬さん。デレデレ超えて、パワーアップしてるというか。凄く柚、愛されててよかったね、そこはとってもよかった」

「……あ、ありがとう……。あ、あのごめん」

 凄く心配して貰っていたのに、連絡を忘れただけではなく、ふたりの前であんなこと。あんなこと!

「舞い上がって、連絡忘れてしまったの、ごめんなさいっ! 変なもの見せてごめんなさい!」

 頭を下げたら、笑うふたりがあたしの手を握って言う。

「別に幸せで忘れていたのならそれでいい。万が一ふられていたらどうしようと裕貴と言ってたの。……柚、早瀬さんと付き合えておめでとう。よく頑張ったね」

「付き合えて、おめでとう柚。あの早瀬須王の彼女だなんて、凄いよ」

 ふたりが好意的に、口々におめでとうを言ってくれるが、涙を流して感謝の言葉を言うあたしは、ふと考えてしまった。

「あのね……。付き合おうとは言われてないし、あたしも言わなかったし。もしかして、付き合ってないかもしれない」


「「は!?」」

 
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