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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

「でもま、別にいいかな。好きだからこの先一緒にいたいというのは話したから。老後も借金返済し続けるという話もしたし。別に形がなくても、あたし達らしいかなって。あたし、小林さんに会ってくるね」

 あたしはバタバタと、須王が消えた先を追いかけた。




「……姐さん」

「……裕貴」

「普通、両想いになったら『俺と付き合ってくれ』だよね」

「うん、それが世の常だと思ってたけど、なんで柚達、過去と今の気持ちを確かめて、老後の話に飛んでいるんだろう」

「多分俺ね、音楽には完璧主義だけど、柚に対しては壊滅的に口下手すぎるあのひとだけは、既に柚と付き合っているつもりだと思うんだよね」

「私もそう思うんだ。だから裕貴に、自分の女だから手を出すなと言ったんでしょう?」

「嫉妬深いのに、どうしてそこんところはっきりさせて、柚と確かめ合わないんだろう。あの感じなら柚、『付き合ってるの?』と聞かれたら『いいえ』と答えそうだ。そうしたら間違いなくあのひとキレるよね。気持ち伝え合って、老後の話? 結婚話は早いかもしれないけど、もっと今のことをさぁ」

「まあ、柚にとってみれば気持ちが通じて嬉しくて、もう過去のように傷つけられることはないと思えるほど、早瀬さんを信じられればそれでいいんだろうけど」

「だけど柚もあのひとも恋愛経験値ゼロなんだから、言葉で確認取らないとトラブル起きるだけだと思うんだけどな。ニュアンスで恋愛のいろはがわかる相手だったらいいんだけどさ。わからないと思うんだ、わかるんだったらとっくの昔に両想いになっていたと思うんだよね」

「同感ね。……はぁぁ。私達がついていてあげないと。初恋拗らせカップルは厄介だわよね、くっついても心配だなんて。多分当人達は心配してないんだろうけど」
 
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