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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「……あのさ姐さん、辛いかもしれないけど、この先もずっと柚と須王さんの味方でいてくれるかな」
「え? あ……正直私、柚がうまくいくか心配で心配で、うまくいったらよかったと心から思うから、すっかり忘れてたわ、早瀬さん好きだったこと。私、気が多いし、今は友情を大切にしたいし」
「……。……きっと、そうしようとしてくれる姐さんにも、いい男現われるから。柚にとっての須王さんみたいな。そうやって柚のために心を押し殺そうとする、優しい姐さんがいいという男がさ」
「あら、そこは自分がいると言うところじゃない? 恋愛漫画の定石じゃない、裕貴の立場は。健気な年上女性にドキドキして、恋を自覚するものじゃない?」
「へ、俺が!? 無理無理、色々無理! ドキドキは別の方にしてるから、無理!! 俺、不可能なことは言わない主義だから。大体俺、夢見る漫画じゃなくて現実主義だから」
「はああああ!? なんでそこで思いきり拒絶するの! ちょっと、裕貴!」
……優しいふたりのどたばたとした会話は、あたしの耳には届いてはおらずに、あたしは早瀬の横に立ち、ベッドに横たわる小林さんを見舞った。
「がはははは、嬢ちゃん心配させて悪かったな。かすり傷程度なのに、こんな凄い病院に検査入院となるとは」
病衣を着た上体を起こした小林さんは、いつも通り笑おうとしているのだが、覇気がなく顔色が悪い。
「なにがかすり傷よ。あばら二本皹入れているくせに。まあ折れていないだけでも、さすがというべきなのかもしれないけれどね」
そう言ったのは棗くん。
異質な入院ベッドがあるだけの、くつろぎのリビングスペース。
近くのソファに座る棗くんは、髪をひとつに縛り眼鏡をかけながら、テーブルに広げていたなにかの資料をひとまとめに片付け始めている。
スーツも着ており、美人さんの顔に、グロスで濡れた緋色の唇がぽってりとしていて、まるで秘書風な隠れ肉食を思わせる理知的な美女で、いけない妄想に涎が出そうだ。
本当に男の子なんだろうか。
あたし、女を辞めたくなってくる。